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最高裁判所第二小法廷 昭和25年(れ)275号 判決 1950年6月30日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人本谷暢音の上告趣意第一点について。

しかし公訴事実の日時、場所、方法等に多少の相異があっても基本的事実関係が同一であるとみられる場合には公訴事実の同一性を失わないものといわなければならない。ところが本件公訴事実たる窃盗の事実と原判決の認定した遺失物横領の事実とは、その日時、場所において近接し双方財産を領得する犯罪であって対象となった財物も同一であるから基本的事実関係が同一であるとみられるのである。從って原判決が本件公訴事実に対し遺失物横領の認定をしても旧刑訴第四一〇条第一八号に該当する違法があるとはいえないから論旨の(一)はその理由がない。

次に原判決挙示の証拠によって被告人に領得の意思のあったことを認定できるのであるから論旨の(二)は原審がその職権により適法にした証拠の判断及び事実の認定を非難するに帰し上告適法の理由とならない。

同第二点について。

しかし所論逮捕手続書を調べてみると右手続書は被告人を逮捕した巡査芳賀初二の作成したもので芳賀巡査、内田刑事、立川司法主任の合作でないことは明らかである。そして右手続書に立川司法主任が署名しているのは右手続書を逮捕調書に代えたためであって立川司法主任の捺印がないからといって右手続書を無効であるということはできない、また右手続書作成当時被告人を逮捕した芳賀巡査には本件犯罪事実について若干判明していたのであるからその知っていた事実を記載したからといってそれをもって内容偽造であるということはできない。それゆえ本件逮捕手続書が無効であるという所論は全くいわれないものである。また警察における被告人取調が拷問乃至強制によったものであることは記録上全然発見できないところであるのみならず警察における供述録取書は原審において証拠として採用しなかったのであるからこれをもって原判決を攻撃する理由とすることはできない。論旨は被告人に対する取扱は憲法第一三条の個人尊重に関する規定に違反するものであると主張するのであるが前記説明の如くその前提たる事実が肯定されないのであるから憲法問題を生ずる余地なく論旨は理由なきものである。

よって刑訴施行法第二条旧刑訴第四四六条により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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